夢には色々ありますが、過去の出来事をその当事者として体験しているように感じることもあります。そうした夢は起きた瞬間に記憶が虚ろになり、殆ど記憶に残りません。それは脳が創作した夢なのか、それともどこかに刻まれた誰かの記憶が呼び覚まされたのか、まだ分かりません。
秋が終わりとなる頃、私は再びカムイみさかで室内ハーフパイプのスキーレッスンを受けました。
夏にコノハさんとは次回も一緒に受けようと話したので、何となく彼女も来ているような予感がしました。が、彼女はいませんでした。ただ、意外なことにセオリさんが一人で来ていて、私は彼女から少し話したいと言われて休憩所に行きました。
「また再会できるとは偶然ですね」
「いや、ここのスケジュールを見たら、今日はスキーのレッスン日だったから、もしかしたらキミに会えると思って来てみたんだ。予想通りだった」
「えっ? それは光栄だと思えばいいんですかね」
「実はコノハのことで相談したいと思って」
「コノハさんのこと、ですか?」
「コノハの様子がオカシイんだ。セキナが言うには、ある日を境に突然性格が変わったらしい」
「ある日から性格が変わった?」
「ある朝、部屋から出て来ないコノハをセキナが起こしに行ったら、『あなたは誰?』って言われたんだって。それから以前のコノハではなくなったんだ」
「えっ、記憶喪失とは違うんですか?」
「いえ、本人に聞いたら全部記憶はあるみたい。でも、体験したことや家族の実感がないようで、一度病院を受診したらしいけどお手上げだって」
「性格が変わるというのは睡眠障害でもあったと思いますが、一時的なものだった筈です。それが続いているのなら、単なる睡眠障害ではないでしょうね。その晩の夢の中で何かあったのかも知れないですね」
「そう。セキナも私もそう思って、一度あなたと話したかったの。あなたとコノハって夏に同じ夢を見たんでしょ。最近、コノハが出て来る夢は見た?」
「いいえ、覚えている限りではないです」
セオリさんは、コノハさんの様子が変わる前の晩に見た夢について話してくれました。
コノハさんはとても長い夢を見ていたと言っているそうです。その夢ではコノハさんはアキという女性でアイという妹がいたそうです。彼女が鏡の泉を見に行った時に自分に似た女性と出会い、その女性と道澄という修験者と一緒に三増峠の合戦後に現れた悪霊と餓鬼を退治に出掛け、そこで意識を失って目が覚めたらしいです。
私たちは連絡先を交換し、私はもしコノハさんの夢を見たら連絡をすると約束をしました。