小さい頃、親に連れられてスキー場に通うのは冬の日常だった。何の疑問も感じずに朝から夕方まで何本もリフトを乗り、ひたすらスキーをした。
中学になると「ちょっと違うんじゃないか?」と思うようになる。なぜならオレの周囲にはスキーをする友達なんていなかった。だけど、中学2年になるまでは親と一緒にスキーに行った。でも、それから高校を卒業するまでスキーには行かなかった。そう、親と一緒にスキーをしたくなかったし、スキーに一緒に行く友達なんていない。
大学生になり、新歓に釣られてスキーサークルに入り、1年生の冬は合宿続きでサークルの仲間と山籠もりをしていた。それまでの短い人生の中で一番スキーをした年だった。でも、そんなノリに付いて行けなくて2年生になってサークルを辞める。
ただ、数年ぶりに再開したスキーの面白さからは離れたくなかった。一緒に滑る仲間がいようといまいと滑り降りる感覚は最高だった。
その年の夏に車の運転免許を取ったオレは、冬になると親から「その内に車を貸してやるから運転の練習を兼ねて一緒にスキーに行け!」と強引に誘われる。仕方がなく何度か付き合って雪道運転の練習をし、はれて親から車を借りることができた。
その日も一人でスキーに出掛け、朝から夕方まで滑って車で帰ろうとしていた時だった。スキー場の駐車場から出て直ぐの雪道で、誰かが座り込んでいる。車を徐行させながら近づいて俺は車を停めた。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
オレは車を降りて声を掛けた。
「ありがと。置いて行かれちゃった」
その人は髪の短い女性だった。
「えっ、連絡を取って戻って来て貰えないんですか?」
「多分無理、私が彼を振っちゃたから」
そう聞いてオレは固まってしまった。
「心配しないで。何とかなるでしょ」
彼女は笑ってそう続けた。
そう言われてしまうと放置することもできない。
「山を下りてバスか電車がある所まで車で送りましょうか?」
これは裏のない全くの善意。
「本当に? いいの?」
彼女は先ほどよりも更に笑顔だった。
彼女の荷物を積み、助手席に乗って貰ってオレは車を走らせた。彼女はこうなってしまった経緯を話してくれた。
彼女はオレと同じように小さい頃からスキーをしていたが、オレと違うのは高校を卒業するまで親と一緒にスキーをしていたことだ。そして大学生になり、スキーの上級者を自称していた彼氏と付き合うようになり、今回が二人で来た初めてのスキーだったらしい。しかし、その彼氏の上級者というのが全くの嘘で、帰り際になると下心が丸見えになったので振ってやったと言うことだった。
オレは「まぁ、大変だね」としか返せなかった。年上に見えた彼女は一つ下の学年だった。
「あなたは一人でスキーに来ていたの?」
彼女は自分が年下だと分かっても口の聞き方に変化がなかった。
「うん。スキーは好きだけど、一緒に滑る友達もいないしね」
「へー、ボッチスキーか」
「ボッチで悪いか? ここで降ろすぞ!」
「ごめんごめん。一人でスキーに来るってことはそれなりに滑れるの?」
「まぁ、SAJの1級は持っているし、パークもそこそこかな。小さい頃から有無を言わさず親に連れて来られた影響だけど」
「なんだ、同じだね!」
それから二人で好きなスキー場やスキー道具のこと、前回の冬期オリンピックで活躍した選手のことなどを語り合い、気付いたら山を下りた先の駅を通り過ぎて高速道路を走っていた。これはこれでイイモノを拾ったのかなと思った。