ぼくが道路を渡り切ろうとしたところで自動車がもの凄い勢いで迫って来た。ぼくは怖くて竦んでしまった。
「じっとしてちゃダメだ。逃げなきゃ」
ぼくはチョコ姉さんの言葉を思い出した。
「ダメだ!助けて!」
ぼくは逃げ切れなくて空に飛ばされた。
その様子を近くに住んでいるおばちゃんが見ていてお母さんを呼びに行ってくれた。ぼくは痛かったけれどお母さんが来るまで頑張った。
少しするとお母さんが駆け付けてくれて、その顔を見たらぼくは気を失ってしまった。
気が付いたらぼくは病院だった。その時は病院に入院したまま死んでしまうと思ったけれど、経過が良くてぼくは直ぐに元気になった。
自動車のタイヤに轢かれなかったから運が良かったらしい。大きな傷もなかった。でも自慢の尻尾や背中のシマシマが曲がってしまった。
退院して家に帰ると、家族が温かく迎えてくれた。チョコ姉さんもコロおじさんも心配していた。
「ひゅうま、お帰り。良かったね、元気になって」
とコロおじさんが言うと
「もうドジねぇ。助からないと思ったわ。あなたは二度と道路を渡らない方がいいわよ」
とチョコ姉さんが続けた。
そんなチョコ姉さんはそれからしばらくして二度目の自動車事故に遭って亡くなった。タイヤに巻き込まれたらしく遺体はなかった。
だけど、お母さんがコロおじさんと一緒に遠く離れたところからチョコ姉さんの物らしい毛皮の一部を拾って来た。そして裏庭にお墓を作った。
「どうしてチョコ姉さんはそんなに遠くまで行ったのだろう?」
ぼくがコロおじさんに聞くと
「きっと自分が産んだ子供を探しに行ったんだよ。最初の事故もそうだった」
と話してくれた。
チョコ姉さんは不妊手術を受けていたけれど、ぼくが来る前に一度だけ子供を産んでいた。その子供はみんな他所の家に貰われて行った。
「わたしの子供たちがみんな他所に連れて行かれたのに、どうしてあんな子が新しく家族になるのよ!」
ぼくがこの家に来た時、チョコ姉さんはクロさんとコロおじさんにそう嘆いたらしい。
「きっと、あの子は他に貰い手がなかったんだよ。だからお母さんが引き取ったんだよ」
とクロさんが言い
「そうだよ。チョコの子供はみんな幸せだよ。生きて他所の家族として迎えられたんだから」
とコロさんが慰めたけれど
「それでもわたしは認めない!」
とチョコ姉さんの怒りは収まらなかった。そして最後の最後まで子供のことを心配していた。
その話を聞いてぼくは自分が生まれた家では要らない子だったことを初めて知った。それからぼくは道路を渡らなくなった。
本当の母親の様子は分からなくなったけれど、生まれた家でもきっと母親だけはぼくを大事に思っていてくれると思った。
それにぼくには今の家族がいるし、遠くに行かなくても家の近くでごろごろするだけで十分に幸せだった。ぼくの部屋はチョコ姉さんが亡くなってからも物置の上にある離れのままだった。