生きのびるために
映画「ブレッドウィナー」の原作
★★★
・さ・え・ら書房
・デボラ・エリス作
・もりうちすみこ訳
・吉川聡子絵
・A5判/168ページ/2002年2月発行
今、昨夜放送されたアニメ「この音とまれ!」25話「天泣」の録画を繰り返し見ながら聴きながら、このレビューを書いています。
2017年の映画を対象とした第90回アカデミー賞の長編アニメ映画賞には、賞を取った『リメンバー・ミー』を含めて5作品がノミネートされました。この5作品の内の1本が「The Breadwinner」です。この年の長編アニメ映画賞には残念ながら日本のアニメはノミネートされませんでした。
この「The Breadwinner」が、2019年12月20日から日本で公開されました。
私は週明けに恵比寿ガーデンシネマで映画を観る予定ですが、その前に作品の背景を知って置きたいと思い、原作である『生きのびるために』を読みました。
私は本を読むペースが遅いのですが、この作品は昼食を後回しにして読み切りました。読み終えて、まず、まるで「アンネの日記」のようだと思いました。
読んでいて苦しかったです。
私たちが住む日本にも犯罪は多々ありますが、幸いなことに戦争は記憶する者が殆どいなくなった記録上の歴史になりつつあります。
しかし、世界のどこかでは地域紛争によって多くの市民が巻き込まれ、今も命を落としています。
1996年から2001年11月頃までアフガニスタンの大部分を実効支配したイスラム原理主義組織タリバン。そのタリバン政権下のアフガニスタンでは、女性は男性同伴でなければ、外出ができませんでした。
そんな中で、父親をタリバン兵に連れ去られ、食糧もお金もなくなった家族を支えるため、この物語の主人公である11歳のパヴァーナは、髪を切り、少女から少年の姿となって外に出て働きます。
パヴァーナの家族は元々は貧しくありませんでした。その状況を原作から引用して紹介します。そう、以前は破壊された街に住む貧しい家族ではなかったのです。
以下、引用
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パヴァーナの両親はどちらもりっぱな家柄の出身だ。高い教育をうけ収入も多かった。中庭のある大きな家を持ち、つねに二、三人の使用人がいて、テレビも冷蔵庫も車もあった。
~中略~
だが、その家は爆弾で破壊された。それ以来、家族は五、六回も引っこししている。そしてそのたびに、どんどん小さな家に移らなければならなかった。家が爆撃を受けるたび、一家は多くのものを失い、爆撃ごとにさらに貧しくなった。とうとう今では、六人がたったひとつの部屋の中でくらしているのだ。
(さ・え・ら書房「生きのびるために」2018年11月 第13刷 P8)
ほんの少し前まで、カブールは美しい町だったと、姉のヌーアリはよく思い出を語る。きれいに舗装された歩道、ちゃんと色の変わる信号機。夜、レストランや映画館に出かけたこともあるし、高級衣料品店や書店をぶらぶら見てまわったこともあるという。
(さ・え・ら書房「生きのびるために」2018年11月 第13刷 P12)
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今の日本の普通の街の生活と大きな違いはないように思えます。
そんな生活も、爆撃によって一瞬で壊れます。
父親をタリバン兵に連れ去られた家族は仕方がなく、パヴァーナの髪を切り、少年として外に働きに出させます。タリバンは女子の教育を認めませんでしたが、パヴァーナは文字が読め、手紙を書くこともできました。
パヴァーナは市場で毛布を広げ、売る品物とペンや便せんを置きました。そして最初の仕事は、あるタリバン兵がポケットから取り出した一通の手紙を読むことでした。
以下、引用
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パヴァーナは読み終えた。タリバン兵はパヴァーナのそばで黙り込んでいる。「もういちど読みましょうか?」
かれは頭をふり、手紙をうけとろうと手をのばす。パヴァーナは手紙をたたんで兵士にもどした。手紙を封筒に入れる兵士の手がふるえている。かれの目から涙がひとつぶ流れ出て、ほおをころがり、濃いひげの中に消えた。
「妻は死んだ」とかれはいった。「遺品の中にこの手紙があった。何が書いてあるのか知りたかったんだ」かれはしばらく手紙を持ったまま、静かにそこにすわっていた。
(さ・え・ら書房「生きのびるために」2018年11月 第13刷 P74)
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現在でもアフガニスタンでは紛争が続いています。そこで暮らす人たちに対して私たちができることは限られています。しかし、私は知らぬふりはできません。何もできないまでも、まず知ることが大事だと思います。
現地の方に「カカ・ムラド」と呼ばれて愛された中村哲医師が、2019年12月4日、アフガニスタンの東部ナンガルハル州のジャラーラーバードにおいて、車で移動中に銃撃を受け、アメリカ軍のバグラム空軍基地へ搬送される途中で亡くなられました。
誰よりもアフガニスタンの市民のために尽力されて来た方でした。
明日の夜、恵比寿では静かに深く映画を味わいたいと思います。
【作成日時】
2019-12-22 14:15