さっき、
 リンクのないホームページに貼り付けられた画像と文章をネット上から消した。

 それは、この世から旅立つ友のためだけのホームページだった。

 彼が逝って、もう四十九日になろうとしている。リンクのないホームページの役割は終わった。
「もう休んでいいんだよ。心配せず、安らかに旅立ちなよ」

 

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 悼詞

 

 彼が亡くなったとメールを貰った時、信じられなかったし、何事が起きたのかと思った。

 

 少し前に事務所の交差点で見掛け、擦れ違い様にお互いに声を掛けた。ニヤっとしながら「ヨッ、元気そうじゃん」と彼が言った。日に焼けた顔は以前通りで昔よりは貫禄がついたが相変わらずという感じで元気そうだった。

 

 彼と私は同期として同じ部に配属され、私にとってはライバルであり、頼りがいのある友だった。脱線する私に「いいかげんにしろよ」と注意するのが彼の役回りだった。眉をひそめられることもあったが私が幹事の飲み会や旅行の企画にはいつも参加をしてくれた。


 部署や勤務地が変わってゆっくり会う機会もなくなったが、不思議と縁があり顔を見掛けることは時々あった。離れていても彼は私にとって気になる存在だったし、彼が頑張っていると思うと自然に励みになっていた。

 まだ同じ部署だったころ、同僚の一人が転勤先で突然亡くなってしまい、職場の仲間で告別式に出掛けたことがあった。後輩の一人が弔辞を頼まれたが列車の中で不安になり、原稿が欲しいと騒ぎ出した。

 

 最初は相手にしなかったが本当に困った様子だったので仕方なく私が代筆した。彼は「代筆の弔辞じゃ喜ばないだろ!何やってるんだ。」って叱ったが、後輩がしっかり弔辞を読み上げた後では誉めてやっていた。
 今度はそんな彼が逝ってしまった。

 

 同じ部署だったころスキーには毎年行っていて、組合の北海道スキーツアーにも何度か出掛けた。最後に一緒に滑ったのは野沢温泉スキー場だった。
 あれから何年も経ったけど、雪の季節になると彼とスキーに出掛ける夢を見る。先週の夢にも彼が元気な姿で出て来ていた。


 夢の中で彼は色々と語ってくれた。何を話してくれたのかは覚えていない。だけど彼は別れを告げに来てくれたのだと思う。

 

 彼のお通夜。お経を聞いていても彼が亡くなったという実感が湧かない。寧ろ、久々に同期の連中や昔の同僚と会えて嬉しかった。

 

 懐かしい顔が次々に現れる。変わった人もいれば全然変わっていない人もいる。昔から変わっていない人の方が多いぐらいだ。自然と顔が綻んだ。ただ、何かが足りない。この場に何かが欠けていることに気が付いた。

 

 そう、いつもこんな場には彼がいた。彼がみんなに引き合わせてくれたのだろうけど、「場所をわきまえろよ」って言ってくれる彼自身がいない。

 ふと自分の胸に手を当てた。大きな穴が開いていた。分かっているのに気付かないフリをしていただけ。穴の大きさを認識した後は懐かしさと戯れるよりも一人になりたかった。


 駅までの薄暗い帰り道、もっと長ければ良いのにと思った。

 

 お通夜の晩、記録的な大寒波の影響で夜が深まるほど外は嵐のようになった。彼のことは悲しいけれど仕方がない。彼の分まで生きて行こう。そう心を静め、暖かくして床についた。
 風の音が耳から離れない。段々と大きくなる。閉め切った家の筈なのに冷たい風が胸を吹き抜ける。
 
 全然眠ることなんかできやしない。起き上がってアルバムを広げた。自分のアルバムの筈なのに彼が写った写真が何十枚もある。真夜中にスキャナとパソコンを立ち上げ、
「この世で縁があった記録として天国に持って行けよ」と思い、
 写真の何枚かをパソコンに取り込んだ。
「こんな夜中に何を馬鹿なことしているんだよ」
 って彼に言われそうだが、口でそう言いながらも彼なら分かってくれると思った。

 

 なぁ、お前がいたから俺は頑張って来れたんだ。お前がいなくなったら張り合いがなくなっちゃうだろ。一人だけカッコをつけて早上がりなんかするなよ!

 

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