誰にも塗り潰したい黒歴史はあると思います。
私の場合、沢山あります。お役所が情報公開請求後に公文書を塗り潰す気持ちがよく分かります。一方で、「おっさんにまでなって、隠すことなんてねぇー」と開き直れますが、特に塗り潰したいことが多いのは学生時代です。
大学に入学してしばらく経ち、何を思ったのかタレント養成所のオーディションを受けました。1次審査を通過し、2次審査の呼び出しがありました。この2次審査は「ねるとん紅鯨団」のオーディションとは雰囲気が違います。
えっ、「ねるとん紅鯨団」を知らない?
それは大変もったいです。ググって調べてください。
そっちの方が黒歴史では?
まぁ、テレビに出て、
「お願いします」ペコ
「ごめんなさい」ペコ
であれば、立派な黒歴史でした。が、そちらはオーディションを通りませんでした。
タレント養成所の2次審査は、自己PR、パントマイム、即興演技だったと思いますが、記憶から消したいと思っていたので、よく覚えていません。
名前は出しませんが、オーディション会場には有名俳優さんも複数居られました。
「面白いね」
と声を掛けられたのは覚えています。
で、しばらくして合格通知が届きました。家族や友だちにも内緒です。
オーディションに合格すると研究生になれます。ただ、レッスンを受けるお金が掛かります。内緒だったのでアルバイトで溜めたお金を使いました。最初の年は基礎のクラスで、週末にレッスンがありました。
同じレッスンを受ける仲間は20名程度で、女性の方が比率は高く、見た目の年齢は十代から二十代でした。
レッスンは楽しかったです。
何が何でも芸能界に居たいという強い気持ちはありませんでした。が、演技を習うことや知らない世界を知ることは新鮮でした。自分がカッコイイとか、有名になりたい!とかではなく、一度経験してみたい!と強く思いました。
基礎のクラスを修了すると専門のクラスになります。
「声優クラスがいいと思うよ」
と割と話をしていた女の子に勧められました。
「どうして?」
と尋ねると、
「地声でドナルドダックができる人ってそうそういないよ。森進一もありだけど」
と笑っていました。
まぁ、中学生になっても変声期のなかった声なので、言われている意味は理解できました。
ただ、残るかどうか迷っていました。嫌なことがあるからです。
当時、頻繁にドラマや映画のエキストラ募集の電話が変な時間に掛かって来ました。
全く相性の悪い事務所の担当でした。
中には喜んでエキストラの仕事をしている仲間もいました。が、動員が掛かるようなエキストラは事務所や劇団ごとに人数確認があるだけで、名前で点呼を取られることなどありません。
頭数が揃っていれば良いだけで、多少なりともデビューにつながるような仕事では全くありません。
やたらと拘束時間だけ長く、大したギャラでもなく、私にはお金を払ってレッスンを受けていた方が余程マシに思えました。
役のあるオーディションは、事務所の紹介ではなく、個人で受けていました。
まぁ、全部落ちましたけど。
エキストラの中で、これは他とは全然違うと思ったのは、黒澤明監督の「乱」でした。始発の電車で早朝に新宿スバルビル前に集合し、バスに乗って御殿場に行き、そこで、足軽の衣装に着替え、一人ひとり顔にメイクを施され、マスゲームの練習かのようにリハーサルを繰り返しました。
大勢のエキストラのために食事の炊き出し隊も準備されていて、待機場所のテントの中で、同じ事務所や他の劇団の方と「やっぱ、黒澤映画ってスゲーな!」と感心しました。拘束時間は長かったですが、とても良い経験になりました。
専門のクラスに進みましたが、他にやりたいこともでき、大学やアルバイトも忙しくなり、レッスンの欠席が目立つようになりました。そして事務所から連絡があり、辞めることにしました。
他のやりたいこと、というのはまた別の機会に、