「俺はお前の先祖の猫たちに酷いことをした。あの頃は余裕がなくて本当に酷いことをしたんだ。だから、せめてお前は大事にしてやりたかった。それなのに、ごめんな、マリ」
ヒマリの祖父は涙を零しながら子猫にそう話し掛けた。
子猫のマリはうっすらと目を開けてヒマリの祖父の方を見ていた。
夕暮れ時の動物病院からの帰り道、ヒマリの祖父は家に向かって歩いていた。すると不意に、見てはいけない何か恐ろしいものを見てしまった。ヒマリの祖父は突然のことに驚き、跳び退った時にバランスを崩して転倒し、大腿部を痛めた。
後日、ヒマリの祖父は整形外科を受診して骨折と診断され、本人は嫌がったが入院することになった。その入院後、幻覚と幻聴の症状が出て、暴れるようになってしまった。その姿は見えない何かを追い払おうとしているようにも見えた。
当初は一時的なせん妄と思われたが、日に日に症状は悪化し、やがて心を閉ざしてしまった。そして病院の整形外科病棟から介護施設に移されることになった。
動物病院でマリが入れられた飼育ケースのある部屋に、三毛猫と狐の霊の姿がぼんやりと浮かんでいる。まだマリは微かに命を繋いでいた。
つづく