ヒマリと子猫のマリの家には、よく男の子が遊びに来る。ユウヤだった。ユウヤは子猫のマリをとても可愛がった。家族以外には懐かない子猫のマリもユウヤには気を許し、ユウヤが来ると傍に寄り、ユウヤとヒマリが二人だけで遊んでいると、まるで嫉妬でもしているかのように間に入って邪魔をした。陽気なヒマリが呆れて怒るぐらいに子猫のマリはユウヤに甘えていた。ヒマリとユウヤ、そして子猫のマリ、とても仲良しの関係だった。
大雪の日、道の反対側の家に帰るユウヤをヒマリに抱かれて子猫のマリも見送っていた。そこに車が突っ込んで来る。子猫のマリは直ぐ車に気付いたが、左耳の悪いヒマリは車の気配に気付くのが遅れた。抱かれていた子猫のマリは暴れ、ヒマリの胸を強く蹴って懐から飛び出した。
ヒマリはバランスを崩して後ろに倒れ掛かった。そこに車が接触した。このためヒマリは車の衝撃を余り受けなかった。一方、子猫のマリは車にぶつかって、軽い身体が少し離れた場所まで飛ばされてしまった。
子猫のマリは、決して逃げ出そうとした訳ではなかった。ヒマリを庇うように車に向かって行き、自分から車に体当たりした。ただ、その様子をヒマリ以外は誰も見ていなかった。
つづく