『わたしには、何もない・・・』
三毛猫は恨み辛みをブツブツと言い続ける人間の方を見た。
『まぁ、命でもいいけどね。もし地獄に堕ちる覚悟があるのなら』
そう聞こえて三毛猫が振り返ると、もう狐の姿はどこにもなかった。
それから三毛猫は深夜になるとしめ縄の巻かれた大木の前に来て、自分や自分の子どもを捨てた人間への恨みを口にし、あの人間の家族への不幸を願った。
そして七日目の深夜、丑三つ時と呼ばれる時間だった。三毛猫はいつものように大木の前で恨みを言うと、木に飛び付いて登って行った。木の高い所まで上り、枝の上をゆっくりと歩いた。
『いつか子どもを失う気持ちを味わうがいい。いつか家を追い出される辛さを味わうがいい。わたしは永遠に地獄の苦しみを味わったっていい』
三毛猫はそう言って枝から飛び降りた。その下には灯篭があった。三毛猫は受け身を取ろうとせず、その灯篭の笠の上にある宝珠に自分の胸を打ち付けた。
つづく