5.1 紙袋に入れられた小さな命 ①

 月のない新月の星空の下、ヒマリは眠りについていた。

 

 遠い昔の夢を見た。

 

 

 ある朝だった。

 畑の中の小さな家で、子猫の賑やかな鳴き声が聞こえる。

 

 母猫とまだ目の開いていない四匹の子猫が段ボール箱の中にいた。母猫は痩せていたがとてもキレイな三毛猫だった。

 その段ボール箱の近くでは人間の男性と女性が口論している。

 

 しばらくして男性と紙袋を持った女性が来て、女性は紙袋の口を広げ、底にタオルを敷き、中に牛乳の入った小さな紙皿を入れた。そして女性は段ボール箱の中に手を入れると、母猫の頭を優しく撫でた。

 

『子育てを褒めてくれているんだ』

 と母猫は安心し、気持ち良くなって目を閉じた。

 

 女性は四匹の子猫から一匹を選んで箱から出し、ゆっくりと紙袋の中に入れた。そして再び段ボール箱に手を入れて子猫を掴み、二匹目も紙袋に移した。

 

 段ボールの中には子猫が二匹だけ残されていた。母猫は段ボールの外に出て、いなくなった二匹の子猫を呼んでいた。幾ら呼んでも、幾ら探しても、二匹の子猫はいなかった。

 

 

  つづく

 

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