「おいおい、あれってコーク7じゃないの?」
ユウヤは洒落にならない顔付きになった。
「そう。コーク720。それもミュートグラブ付き。彼にはジュニアじゃ誰も勝てない」
ツキハが静かに答えた。
背の高い少年がツキハに気付いたようで近寄って来た。
「あれ、ツキハじゃない。これから練習?」
「えっ、うん。それより、ミコトくん、スゴイね。スイッチ540なんて」
「そんなことないよ。僕なんてまだまだ」
背の高い少年はそう応え、
「ハル~、ミスズ!ツキハがいたよー」
と他の二人に声を掛けた。
少女の方はコーチに指導を受けている最中で、一瞬だけ振り向いて手を上げて、またコーチの方を向き直った。一方、細身の少年はスケーティングをしながらツキハの元へ近付いて来た。
「ハルト、白馬の大会以来だね?」
「ああ」
「コークにミュートグラブまで入れるようになったんだ」
「ああ、その方がコーチがカッコイイって言うからな」
「スタイル出てるよ!」
「そうか?俺はフリーでしかスキーしない。自由に飛ぶだけだ」
感情豊かなツキハに対し、ハルトという少年は妙に冷めていた。
つづく