浅間山の洞窟での龍蛇との対決は、三増の時のように餓鬼悪霊との戦いもないまま龍蛇が退く形で終わりました。ただ見せ場がなかった輝虎様は不満そうでした。
私たちは鎌原村に戻り、そこで千代女さんと別れることになりました。
「千代女さん、あなたとの旅は楽しかったです。お世話になりました」
「道澄様、御礼を言うのはこちらです。ぜひ祢津村にも一度お越し下さい。その際には歓迎致します」
「ええ。巫女村には興味があります。機会があれば伺わせて頂きます」
「輝虎様、今後はよしなにお願い致します。またお伺いさせて頂きます」
「ああ。越後の旨い酒を飲ませてやる」
「千代女さん、洞窟までありがとうございました」
「いいんですよ。本音を言えば、龍蛇に操られていなくても、コノハを親方様の元に連れて行きたい。だけど、五摂家筆頭の近衛家の道澄様を敵に回せば、親方様の立場がなくなるしね。コノハ、あんたが羨ましいよ。じゃあね」
千代女さんが私に笑顔で応えてくれました。
別れの挨拶を終えると千代女さんと唐沢玄蕃を残し、私たちは吾妻川沿いの街道を合流する利根川に向かって歩き出しました。
つづく