その驚いた声が掻き消えない内に輝虎殿が広間に入って来ました。
「唐沢玄蕃が届けた書状で要件は分かっている。浅間山の龍蛇を斬るため、備前長船兼光の名刀である水神切兼光を借りたいのだろう?」
「はい。そのために参りました」
「ダメだな。道澄の頼みでも家宝の水神切兼光は貸せん。それに、あの刀はお前では扱えまい」
「そうですか…」
「しかし、その龍蛇が餓鬼悪霊を操って同盟を結ぶ北条が治める集落を襲ったのであれば、関東管領として捨て置けん」
「では、お力をお貸し頂けますか?」
「ああ。他でもない道澄の頼みだからな。龍蛇は神の如き存在だから魔を祓う道澄の呪術では対抗できまい。神切りの刀が必要だろう。仕方がない。私が退治する」
「はぁ?」
「だから、私が自ら退治してやる」
「輝虎殿が御自らですか?」
「ああ、当然だ」
「しかし、浅間山の辺りは武田の支配下で、沼田から向かうには真田幸隆殿が守る岩櫃城を通ることになると思いますが」
私が更に疑問を投げ掛けると上杉の家臣の方々も頷いています。
「武田との戦ではないから軍勢は率いぬ。武田の者も身一つの私を討つほど恥知らずでもないだろう。唐沢玄蕃と望月千代女、真田とは話を付けられるのだろう?」
つづく